DEAD WESTコラムリレー
春(umbrella)

む~ん。

生中650円か・・・

私の名前はumbrella春。自他ともに認める紳士。
バンドをしていると、こうして遠征先で見知らぬ街を歩くのが楽しみになっている。

今日は東京某所。B級グルメでにぎわいのあるという情報だったが、歩いてみると実はそれがメディアに作られたイミテーションだということが分かった。
粉もんで一人前千円以上、しかも酒は高い。

困ったなぁ

そのときふと、路地の方に赤ちょうちん、そして「煮込み」の3文字。

うん。いいね。

~夜の路地裏サーチライト モツ煮編~

ガラガラ

「いらっしゃ~い」

威勢の良い声で出迎えてくれたのは齢にして70程の女性。よし、この女性のことはお母さんと呼ぶことにしよう。

「お母さん、ビールの大瓶を下さい。」

「麒麟、サッポロ、アサヒ、どれにする?」

良いぞ!
ビールの銘柄が多い店は呑助の多い証拠。これは当たりかもしれない。

「じゃあ・・サッポロで」

お母さんは笑顔で家庭用の冷蔵庫を開ける。ガサゴソと冷蔵庫の中を掻き分ける姿もまた素敵だ。

するとお母さん
「麒麟も・・・美味しいよ?」

確かに。

麒麟は美味い。

冷蔵庫にサッポロがなかったのとは関係なく、麒麟が美味いと思って私の為にオススメしてくれたんだ。

「じゃあ麒麟で!」

店内には私の他に女性が1人。
ボトルキープのいいちこを飲みながら流行りの刑事ドラマを見ている。
常に冷静な判断で犯人を追い詰めていく刑事と、熱血派な部下のドラマである。
その二人のコミカルなやりとりにブツブツと何かいいながら時折お母さんに「ねぇ~」と相づちを求める。おそらく常連の様だ。

「はいおまちど~」

冷凍庫でキンキンに冷やされたグラスと麒麟のビールが来た。

ゴクゴク

う、うましー!

ビールが来るまでに店内の情景を堪能出来た。これが最高の肴。

「何か食う物をもらおうかな。牛モツとフワを下さい。」

フワとは牛の肺の部分で、ブニュっとしてなんとも形容し難い食感で美味い。

「はい、牛モツとフワね」

早速出て来た煮込みは見事な物であった。

牛モツは小腸の周りについた上質な脂を残し柔らかく煮込まれている。これは国産牛じゃないと出来ない。
そしてフワは全く臭みもなく甘辛く味付けされ、食感もバツグン。

これは良い店だ。

「お母さん、ここらじゃ粉もんが有名だってインターネットで見たから来たものの、高い店ばかりでさぁ正直がっかりしたね。」

「あぁ、粉もん屋は観光客向けだからねぇ。高いし美味しくないよ」

酒も入っていたのか、初対面のお母さんとはすぐ打ち解けた。

「まったくさ、インターネットが普及して情報が入り乱れて、何を信じたらいいか分からないよね。ネットを通じて話している相手の名前や性別も嘘かもしれないんだもん。」

「そうね。今の若い人はそれだけ考えることを放棄しちゃって、なんでも携帯で調べてその情報を鵜呑みにしちゃってるからね。」

「そう、そうなんだよ。でもねお母さん、俺は絶対に最後には自分を信じる。この店に来れたのもそう。周りの流行ってる店とお母さんの店の店構えやオーラを比べて、この店に来た。俺はあの時自分を信じて良かったね。こんな美味い煮込みとビールに出会えたんだから。それにさ、男って生き物は最後に自分を信じて出した答えなら、間違ってても納得出来る。男なら文句は言わねぇ、なんだよ。」

「そうそう、男はそうでなくちゃ!」

お母さんの合いの手が妙に気持ち良く酒が進む。

その後、常連の中年女性は帰り、お母さんと二人になって色んな話を聞いた。
亡くなったご主人が大阪の人で大阪に嫁いだものの主人がギャンブルにハマって東京に戻って来たこと、娘さんが大手広告代理店の方と結婚したということ、一度だけ店のお客さんと恋に落ちたこと、他愛のないお母さんの話が良いBGMになった。

「そろそろ帰ろうかな。ご馳走様でした。お勘定お願いします。」

「は~い、2400『万』円です」

「ズコー!!ちょ、ちょっとお母さん!『万』は余計でしょー!」

「あら、男は後から文句を言わないんじゃなかった?」

「や、やられた~、合わせ技一本!」

最後の最後にこんな年季の入った接客サービスを見せてくれるなんてこの店は誰にも教えたくない。うん。五つ星だ。

今は便利な時代で、いつでも、どこでも、誰とでも話せる様な時代だ。
しかし人間関係の基本はこういった対面での会話。

面倒臭いかもしれないが、これが一番正しくて楽しいと、私は信じている。

次のお題は「白ご飯」

語り手はメビウスのyuna君。
どんな話が飛び出すのでしょうか。お楽しみに。

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